だれもが活け花をそんなに真剣にやるとは思わないけれど、活け花に限らず「これで決まり」となるまでなにかにこだわる場面は、だれにでもあるはずだ。洋服に合うベルトを探す場面でもいいし、プリンとクリームをひとつの皿にバランスよく盛りつけるといった場面でもいい。どんな些細なことでも、ちょっとしたニュアンスのちがいで全体のバランスが乱れ、あるべき関係はひとつしかないという感じがするものだ。(エルンスト・H・ゴンブリッチ)
例えば「大事なのはコンセプトであって、ものでない」というような名分で、「これで決まり」の感覚がなおざりにされる。しかし、いくら情報化された世の中でも、人間はものを作り、ものを使って生きる。ものを丁寧に作る意識が減退したら、社会は貧しくなって行くだろう。
引用は『美術の物語』(河出書房新社)序章から。